「転勤族なんて、お子さんがかわいそうね」。祖父母から、ママ友から、ときには初対面の人から投げられるこの言葉に、胸がざわついた経験はありませんか。結論から言うと、転勤族の子どもは「かわいそうと決まっている」存在ではありません。影響を左右する最大の変数は、転校の回数でも土地でもなく、親の関わりです。転勤族の子として育った大人たちの声と、親にできること、そして「母校がない・生まれた町の記憶がない」子への具体的な手当てをまとめました。読み終えるころには、「かわいそうね」に心の中で返す言葉が見つかっているはずです。
なぜ「かわいそう」と言われるのか

理由は明確です。友達関係が数年ごとにリセットされる。母校と呼べる学校がない。「地元どこ?」に答えられない。卒業アルバムに数年しか写っていない——。定住が当たり前の人から見れば、これらは「奪われているもの」に見えます。まず、この見え方自体は否定しなくていいと思います。実際に失うものはあるからです。大切なのは、その失うものを「別の形で埋め直せる」と知っておくことです。
転勤族育ちの大人たちの本音は「両方」ある
ネット上には転勤族の子として育った大人の回想が数多くあります。ポジティブな声は「環境が変わるたびに視野が広がった」「初対面の人と話すのが得意になった」「どこでも生きていける自信がついた」。一方でネガティブな声も率直で、「人間関係を深める前に切り上げる癖がついた」「故郷や幼なじみがいないことに、大人になってから欠落感を覚える」というものです。興味深いのは、転校が1回だけの人は転校未経験者と近い感覚で育ったという声が多いこと。回数と時期、そして親のサポートの質で、影響は大きく変わるのです。
【体験談】「生まれた町」を、旅行で子どもに返す

わが家の子どもは、生まれた場所が転勤先でした。きょうだいで生まれた町がバラバラで、しかも生まれてすぐ、別の土地へ引っ越しています。だから、生まれた町の記憶が本人にはほとんどありません。大きくなって友達に「どこで生まれたの?」と聞かれても、うまく話せない。写真の中の知らない町、という感覚なのだと思います。
この「生まれた町を語れない」感覚は、母校がないことと並んで、転勤族の子が抱えやすい小さな引け目です。放っておくと、本人の中で空白のまま残ってしまいます。
そこでわが家では、子どもが生まれた町へ、旅行として出かけるようにしています。生まれた病院の前を通り、当時住んでいた家を外から見て、近くの公園やごはん屋さんに寄る。「ここであなたが生まれたんだよ」と話しながら歩くだけで、写真だけだった町が「自分の物語がある町」に変わっていきます。記憶がないなら、あとから一緒に作ればいい。旅行は、失われた記憶を子どもに返す方法になりました。今では子ども自身が「次はぼくの生まれた町に行きたい」と言うようになっています。
「出生地の記憶」を子どもに返す4つの方法
生まれた町の記憶がなくても、あとから「その子の物語」として手渡すことはできます。わが家が実際にやっている、続けやすい方法を挙げます。
・生まれた町へ旅行する:病院・住んでいた家・近所を一緒に歩き、「ここで生まれた」を体で覚えてもらう。
・母子手帳やエコー写真、当時の写真を見せる:「その町にいた証拠」を本人と一緒に眺める時間を作る。
・その土地の名物や行事を家で再現する:生まれた町のお祭りや郷土料理を家庭に取り入れ、日常の中でつながりを残す。
・地図に「生まれた町」「住んだ町」の印をつける:日本地図に家族の足あとを可視化すると、「自分は各地とつながっている」と感じられる。
「かわいそう」を現実にしないための親の関わり5つ

①別れの悲しみを否定しない——「また作ればいい」はNG(友達との別れの心のケア)。②転校の見通しはできるだけ早く、正直に共有する。③家庭を「何があっても変わらない場所」にする。家の中のルールや習慣を土地が変わっても維持すると、子どもの安心の軸になります。④各地の思い出を写真や記録で「うちの家族の歴史」として残す。⑤本人の意思を聞ける年齢になったら、帯同か単身赴任かの決定に参加させる(子どもの気持ちケア完全ガイド)。
「地元がない」は「地元が複数ある」

転勤族の子には、帰る場所が1つない代わりに、思い出のある街がいくつもあります。方言を2つ話せる、全国に友達がいる、日本地図が「住んだ街」で埋まっていく——これは定住の子には持てない財産です。「地元どこ?」と聞かれたら、「生まれたのは○○、育ったのは△△と□□」と複数形で答えていい。それは恥ずかしいことではなく、その子だけの豊かな経歴です。そして何より効くのは、親自身が転勤生活を楽しんでいる姿を見せること。親が「ごめんね」と思いながら暮らせば子どもは被害者になり、親が「次の街も楽しもう」と生きれば子どもは冒険者になります。
よくある質問
Q. 子どもが生まれた町を覚えていません。問題ありますか?
問題ありません。記憶がなくても、あとから「物語」として渡せます。旅行や写真、母子手帳を一緒に見るだけで十分です。大切なのは、空白のままにしないことです。
Q. 「地元どこ?」に子どもがうまく答えられません。
「生まれたのは○○、育ったのは△△と□□」と、複数形で答えていいと教えてあげてください。答えが1つでないことは、引け目ではなく、その子ならではの経歴です。
Q. 故郷がないのは、将来かわいそうではないですか?
回数と時期、そして親の関わりで変わります。複数の故郷を持つことは財産にもなります。「かわいそうにするかどうか」は、生まれた場所ではなく、これからの関わりで決まります。
まとめ

転勤族の子どもは、かわいそうかどうかが「決まっている」存在ではありません。影響を左右する最大の変数は、転校の回数でも土地でもなく、親の関わりです。母校や生まれた町の記憶がなくても、旅行や写真で「その子の物語」はあとから作れます。具体的な転校のサポートは転校を成功させる完全ガイドと小学校選びガイドにまとめています。「かわいそうね」と言われたら、心の中でこう返しましょう。「かわいそうにするかどうかは、私たち次第です」と。

コメント