転勤族の子育てで、私がいちばん頭を悩ませてきたのが「中学受験をどうするか」です。わが家でこの問題が現実になったのは、子どもが小学4年生のとき。この前編では、転勤族が中学受験を考えるときの悩みの正体と、実際に塾を探して分かった現実を、わが家の体験談としてお伝えします。夫婦会議の末に見えてきた「取り得る5つの選択肢」は後編にまとめました。
先にお断りしておくと、この記事に「これで解決!」という魔法の答えはありません。わが家自身がまだ悩みの中にいるからです。ただ、同じ悩みを持つ転勤族の方に「うちだけじゃないんだ」と思ってもらえて、考えを整理する材料になれば、それがこの記事の役目だと思っています。
【体験談】小4で直面した「転勤族の受験の壁」

中学受験は、一般的に「小4からの3年間が勝負」と言われます。
わが家も、子どもが小学4年生になった頃から、なんとなく中学受験を意識し始めました。正直、それまではまだどこか他人事でした。
「受験するかどうかは分からないけど、選択肢として考えておいた方がいいよね」
夫婦で最初に話したときは、そのくらいの温度感でした。
ところが、いざ調べ始めてみると、転勤族にとって中学受験は想像以上に難しい問題でした。単に「勉強を頑張る」「良い塾を探す」という話では済まなかったのです。
まず最初にぶつかったのが、塾の問題です。
都市部であれば、中学受験専門の進学塾がいくつもあります。大手塾の校舎もあり、志望校別の対策講座もあり、模試も充実している。ネットで調べれば、合格実績や口コミもたくさん出てきます。
でも、転勤先の地方ではそうはいきませんでした。
近くにある塾を調べても、基本は地元の中学生向けの補習塾や、高校受験対策の塾が中心。もちろん、それ自体が悪いわけではありません。地域の子どもたちにとっては大切な学習の場です。
ただ、中学受験、特に首都圏や地方都市の進学校を目指すとなると、カリキュラムの前提がまったく違うのです。
「ここに通わせて、本当に中学受験の準備になるのだろうか」
塾のホームページやパンフレットを見ながら、そんな不安が何度も頭をよぎりました。
次に困ったのが、受験する学校を決められないことです。
中学受験は、志望校から逆算して準備するものだと思います。どの学校を目指すのか。その学校の出題傾向はどうか。偏差値帯はどのくらいか。通学時間は現実的か。そこから塾や教材、模試の受け方を考えていく。
でも、転勤族の場合、この前提が崩れます。
今住んでいる場所で受験するのか。
数年後には別の地域にいるのか。
子どもが小6のとき、どこに住んでいるのか。
そもそも受験直前に転勤辞令が出たらどうするのか。
考え始めると、すべてに「もし転勤になったら」がついて回ります。
行きたい学校が見つかったとしても、その学校を受ける頃にその地域に住んでいる保証がありません。せっかく塾を決めても、半年後や1年後に転勤になれば、また一から探し直しです。
受験は本来、数年単位で積み上げるものです。
でも転勤族の生活は、数年先の居場所すら自分たちで決められない。
この相性の悪さに気づいたとき、かなり重たい気持ちになりました。
さらに話は、塾や学校だけでは終わりませんでした。
「だったら、どこかに教育の拠点を作るべきなのか」
夫婦でそんな話も出ました。
首都圏や地方都市に家を買う、あるいは賃貸で拠点を作る。そうすれば、子どもの教育環境は安定します。塾も選べる。学校も選べる。受験の計画も立てやすい。
でも、その選択はほぼ同時に、次の転勤から単身赴任を受け入れるということでもあります。
教育を安定させる代わりに、家族で一緒に暮らす時間が減る。
子どもの受験を優先する代わりに、父親が日常から離れる可能性がある。
家を買えば、転勤のたびに身軽に動くことも難しくなる。
中学受験を考え始めただけのはずが、いつの間にか「家を買うのか」「単身赴任をするのか」「家族で一緒に暮らすことをどこまで優先するのか」という、かなり大きなテーマにまで広がっていました。
正直、ここまで重い話になるとは思っていませんでした。
中学受験の悩みは、子どもの学力ややる気だけの問題ではありません。転勤族にとっては、住む場所、働き方、家族の暮らし方まで巻き込む問題です。
わが家が小4で直面した「受験の壁」は、まさにそこでした。
塾がない。
志望校を決めきれない。
準備計画が立てられない。
転勤辞令ひとつで、すべてが変わってしまう。
この現実を前にして、「受験するか、しないか」を簡単には決められなくなりました。
そして何よりつらかったのは、子どもにとって一番いい選択をしたいのに、親の努力だけではコントロールできない要素が多すぎることでした。
だからこそ、転勤族の中学受験は難しい。
勉強を頑張ればいい、良い塾に入ればいい、という単純な話ではなく、家族全体のこれからをどう設計するかという問題なのだと、このとき初めて実感しました。
塾を探して分かった、地方と都市部の「レベルの断層」

「近くの塾に通えばいいのでは?」
転勤族の中学受験について話すと、そう思う方もいるかもしれません。実際、私も最初はそう考えていました。
家の近くに塾があれば、学校帰りにも通いやすい。送迎の負担も少ない。子どもにとっても、慣れた地域の中で勉強できる方が安心だろう。そう思って、まずは自宅から通える範囲の塾を調べ始めました。
ネットで検索し、塾のホームページを見て、パンフレットを取り寄せ、口コミも確認しました。いくつか候補は出てきました。地域密着型の塾、個別指導塾、補習に強そうな塾、地元の高校受験で実績を出している塾。
最初は「意外と選択肢はあるかもしれない」と思いました。
でも、詳しく見ていくうちに、少しずつ違和感が出てきました。
合格実績に並んでいるのは、ほとんどが地元の公立高校。
カリキュラムの中心は、学校の定期テスト対策。
面談で重視されているのも、内申点や高校入試に向けた学習計画。
小学生向けのコースも、どちらかというと学校の授業の先取りや補習が中心。
もちろん、それ自体はまったく悪いことではありません。むしろ、地域の子どもたちにとっては、とても大切な塾だと思います。地元の学校に通い、地元の高校を目指すのであれば、定期テスト対策や内申点対策は必要です。地域の学校事情をよく知っている先生がいることも、大きな安心材料になります。
ただ、わが家が悩んでいたのは、そこではありませんでした。
首都圏や地方都市の私立中学、あるいは中高一貫校を視野に入れたとき、必要になる勉強はまったく別物です。学校の授業についていくための勉強ではなく、受験問題を解くための勉強。基礎の確認だけではなく、思考力、記述力、応用問題への対応力。さらに、志望校ごとの出題傾向に合わせた対策も必要になります。
そこで初めて、地方と都市部の「レベルの断層」のようなものを感じました。
都市部であれば、中学受験専門の大手進学塾があります。小4からの3年間を前提にしたカリキュラムがあり、クラス分けがあり、模試があり、志望校別の対策があります。周りにも同じ目標を持つ子どもたちがいて、良くも悪くも受験の空気が日常の中にあります。
一方、地方の塾では、中学受験そのものが主流ではない地域も多いです。周りの子どもたちは地元の公立中学に進む前提で、その先の高校受験を見据えている。塾側も当然、そのニーズに合わせてカリキュラムを作っています。
つまり、塾の良し悪しではなく、そもそもの目的地が違うのです。
地元の塾が悪いわけではありません。
先生の熱意が足りないわけでもありません。
子どもたちの学力が低いという話でもありません。
ただ、目指しているゴールが違う。
この現実に気づいたとき、かなり苦しくなりました。
塾のパンフレットを見ながら、ふとこう思ったのを覚えています。
「この塾に3年間通ったとして、本当にあの学校の入試に届くのだろうか」
「子どもの努力が、目指す場所につながっていくのだろうか」
「住んでいる場所だけで、選べる教育の幅がこんなに変わるのか」
もちろん、個別に相談すれば対応してくれる塾もあるかもしれません。親が教材を選び、家庭学習を組み合わせれば、補う方法もあると思います。でも、それはかなり親の負担が大きい。塾に任せれば安心、という状態ではありません。
都市部の家庭であれば、ある程度は塾のカリキュラムに乗れば、受験までの道筋が見えます。でも地方の転勤先では、親が自分で情報を集め、足りない部分を見極め、子どもに合う学習環境を組み立てていかなければならない。
この差は、想像以上に大きいものでした。
そして何よりつらかったのは、それが子どもの努力以前の問題だと感じたことです。
子どもにやる気がないからではない。
学力が足りないからでもない。
親が教育に無関心だからでもない。
ただ、住んでいる場所によって、選べる塾の数も、受けられる授業の質も、周囲の受験環境も、大きく変わってしまう。
「教育は平等」と言われますが、実際には住む場所によって選べる教育の幅はかなり違います。特に中学受験のように、専門性の高い準備が必要な世界では、その差がはっきり出ます。
転勤族にとって厳しいのは、その「場所」を自分たちで自由に選べないことです。
教育環境を考えて住む場所を決めたい。
子どもに合う塾がある地域に腰を据えたい。
受験までの3年間だけでも同じ場所にいたい。
そう思っても、会社の辞令ひとつで前提が変わってしまう。せっかく塾を探しても、次の転勤でまたゼロからやり直しになるかもしれない。
このとき、転勤族の中学受験の難しさは、単に「地方に塾が少ない」という話ではないのだと分かりました。
問題の核心は、子どもの教育環境を親が主体的に選びきれないこと。
そして、住む場所によって「選べる教育の上限」が変わってしまうこと。
だからこそ、わが家は「近くの塾でいいよね」と簡単には決められませんでした。地元の塾に通うこと自体は悪くない。でも、その塾だけで中学受験に必要な準備が本当に足りるのか。足りない部分を家庭でどう補うのか。そもそも、どの地域の学校を目指すのか。
考えれば考えるほど、答えは簡単には出ませんでした。
塾のパンフレットを並べたテーブルの前で感じた、あの行き詰まり感。
「頑張れば何とかなる」と言い切れないもどかしさ。
住む場所に左右される教育環境への悔しさ。
それが、地方で塾を探して初めて分かった、転勤族の中学受験の現実でした。
オンライン塾も検討した。そして断念した

地方の塾を探して行き詰まったあと、次に考えたのがオンライン塾でした。
正直、最初に見たときは「これなら転勤族にぴったりなのでは」と思いました。
住む場所が変わっても、同じ先生の授業を受けられる。
転勤先に大手進学塾がなくても、都市部と同じようなカリキュラムに触れられる。
引っ越しのたびに塾を探し直さなくてもいい。
送り迎えも不要で、親の負担も減る。
理屈の上では、オンライン塾は転勤族にとってかなり魅力的な選択肢でした。
実際、資料を見ていると、すごくよくできているんです。動画授業、ライブ授業、確認テスト、学習管理、質問対応。昔の通信教育とは違って、かなり本格的に受験対策ができるように見えました。
「これなら、住む場所に左右されずに中学受験の準備ができるかもしれない」
そう思って、夫婦でもかなり真剣に話し合いました。
でも、最終的にわが家はオンライン塾を主軸にすることを断念しました。
理由はシンプルです。
うちの子の場合、続かなくなる可能性が高いと思ったからです。
オンライン塾は、仕組みとしてはとても便利です。けれど、実際に使うのは子どもです。画面の前に座り、授業を聞き、問題を解き、分からないところを質問し、毎週のペースを守って進めていく。その一つひとつを、子ども自身がある程度前向きにやれるかどうかが大きいと感じました。
大人から見ると、「家で受けられるなんて便利」「移動時間がなくて効率的」と思います。
でも、子どもからすると、家はどうしてもリラックスする場所です。
すぐ近くに漫画やゲームがある。
疲れたらソファに座れる。
誰かに見られている緊張感も少ない。
同じ教室で頑張っている友達の存在もない。
その環境で、受験勉強という長丁場を走り続けるのは、思っている以上に難しいのではないかと感じました。
特にわが家の場合、「親が声をかけないと始めない」「横についていないとペースが落ちる」という場面がまだありました。もちろん、小学生なのでそれが普通だとも思います。最初から完全に自走できる子ばかりではありません。
ただ、中学受験の勉強は短距離走ではありません。小4から小6まで、何年も続くマラソンのようなものです。
最初の数週間は頑張れても、半年後、1年後も同じように画面の前に座り続けられるのか。親が毎回管理し、声をかけ、進捗を確認し、やる気を支え続けることができるのか。
そこを考えたとき、わが家には少し難しいかもしれないと思いました。
もちろん、オンライン塾を否定するつもりはまったくありません。
自分で計画を立てて勉強できる子。
画面越しでも先生の話を集中して聞ける子。
分からないところを自分から質問できる子。
周りに友達がいなくても、一人でコツコツ積み上げられる子。
そういうタイプの子には、オンライン塾は本当に強い選択肢だと思います。転勤族にとって、住む場所に左右されない学習環境を作れることは大きなメリットです。
ただ、わが家の子どもには、少なくともその時点では合わないと感じました。
親として一番怖かったのは、「契約しただけで安心してしまうこと」でした。
オンライン塾に申し込めば、学習環境を用意した気になります。受験対策を始めた気にもなります。でも、実際に子どもが使い続けなければ意味がありません。
教材はある。
授業もある。
仕組みもある。
でも、子どもが開かない。
親が毎回言わないと始まらない。
気づいたら数週間分たまっている。
そんな未来が、かなり現実的に想像できてしまいました。
だから、わが家はオンライン塾を「主軸」にすることはやめました。
オンライン塾は、転勤族にとってたしかに魅力的です。
でも、「転勤族にはオンラインがあるから大丈夫」と簡単には言えません。
大事なのは、サービスの良し悪しだけではなく、わが子がその環境で続けられるかどうかです。親が期待する便利さと、子どもが実際に続けられるかは別問題です。
このことに気づいたとき、オンライン塾もまた、転勤族の中学受験を一気に解決してくれる魔法の答えではないのだと感じました。
学区問題:「荒れている学区」を避けたいのも本音
受験の話と地続きなのが学区の問題です。夫婦だけの暮らしなら、正直どの学区でも構いません。でも子どもの進学を考えると、荒れている学区には行きたくない。少しでも良い環境で学ばせてあげたい。この気持ちは、転勤族の親なら誰でも持っているはずです。
ただでさえ転校で子どもに負担をかけるのに、学校環境まで悪くなったら——。だからわが家は、転勤のたびに学区リサーチへかなりの時間を使います。住まい選びと学区の考え方は転勤族の住まい選びと小学校選びの完全ガイドに詳しくまとめているので、あわせて読んでみてください。
悩みの正体は「教育」ではなく「中長期計画が立てられないこと」
夫婦で何度も話し合って気づいたのは、悩みの本質は塾や学校そのものではなく、人生の中長期計画を自分たちで立てられないもどかしさだということでした。志望校も、住む場所も、塾も、すべてに「辞令次第」という前提がつく。受験のような数年がかりのプロジェクトと、この前提は絶望的に相性が悪いのです。
正直に言えば、就活生や転職者が「転勤のない会社」を選ぶ理由が、子どもの受験を考え始めてから心の底から納得できるようになりました。転勤は、キャリアの問題である以上に、家族の人生設計の問題なのだと思います。
まとめ:うちだけじゃない?
- 転勤族の中学受験は「勉強を頑張る」だけでは済まない。住む場所・働き方・家族の暮らし方まで巻き込む問題
- 地方の塾は地元の中学レベルに合わせて作られており、都市部の進学校とは「レベルの断層」がある
- オンライン塾は理屈上は完璧だが、「子どもが使い続けられるか」という現実の壁がある(わが家は断念)
- 悩みの本質は教育ではなく「中長期計画を立てられないこと」。すべてに「辞令次第」がついて回る
では、それでも転勤族は中学受験にどう向き合えばいいのか。わが家の夫婦会議で見えてきた「取り得る5つの現実的な選択肢」と「受験学年で辞令が出たときの備え」は、後編:わが家が見つけた5つの現実的な選択肢に続きます。


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